何も言えなくて・・・冬

その若者は、鑿を当てる位置を変えながら、迷うことなく大胆にハンマーを振るっていました。
30年ほど前のこと、私はVesperに行商に向かう途中でした。
Kendal山を迂回して、東側の裾野まで行きますと、そこは当時も採石場で、朝も早い時間でほかに人の姿はなく、幾つかの仕事道具が散らばっています。
見る見るうちに彫像が掘り出されていく手際は、それは見事なものでした。
若さにそぐわぬ鑿使いの巧みさを褒めると、掘り出すべき姿は見えているのだから、土の中から石を掘り出すようなもので、難しい事は何もないと言います。
更に、職人になって何年になるのか尋ねますと、意外な答えが返ってきたのです。
「いえ、僕は職人じゃありませんよ。鑿、って言うんですか、これ? 犬の散歩でここを通りかかったら、岩壁の中に天使が閉じ込められているのを見つけたものですから、近くに落ちていたこの道具を使って、助け出そうとしているところです。」
間もなくすると、今にも飛び立つのではないかと思うほどに見事な天使像が掘り出されました。
いや、彼の言に倣えば、助け出した、ということになりますか。
私は、図らずも天才職人の誕生に立ち会ったことを悟り、若者に頼み込んで、その天使像を譲ってもらったのです。
そのときはまさか、その若者がブラックソーン城を飾る彫刻の数々を手掛ける名匠になるとまでは予想していませんでしたがね。
この天使像は、商売の種とはせず、家宝として大事に飾っていたのですが、長いこと商売の上手くいかない年が続き、とうとう手放す腹を決めたのです。
ただ、同じ手放すにしても、物の良し悪しが判らない成金コレクターを相手にするのは癪です。
ご主人のような、目利きの方にお譲りできれば、私にとってもこの天使像にとっても、これ以上幸せなことはないでしょう。

「・・・という訳なのだよ、セバスチャン」
という訳なのだよ

「名匠の処女作が、しかもここMinocの地で造られたとあっては、値を渋るわけにも行くまい?」

ご主人様が、行商人から手に入れられた天使像の来歴を得意気に語られるのを聞きながら、私の体は震えだしていました。
確かに、屋敷の屋上には冬の冷たい風が吹いておりましたが、震えの原因は寒さのせいはありません。
私は、まったく同じ話を先週聞いたばかりだとも、自分の家にも似たような天使像があるとも言い出しかねて、ただ震えながら、その場に立ち尽くすほかなかったのでございます。

テーマ : Ultima Online
ジャンル : オンラインゲーム

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